ニッキィ女性のからだ相談室
10月 8日

鼻と嗅覚

「会議室やお店に入ったときに、においが気になります。周りの人はあまり気にならないようなのですが。嗅覚はかなり個人差がありますか?」
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
質問 「会議室やお店に入ったときに、においが気になります。周りの人はあまり気にならないようなのですが。嗅覚はかなり個人差がありますか?」

 ほかの感覚同様、嗅覚にも個人差はあります。嗅覚は耳鼻咽喉科などで検査できますが、検査方法が複数あり、視力や聴覚などのように統一された単位もありません。測定が難しいため健康診断の項目にも入っておらず、他の人と比較しづらい感覚です。また、嗅覚は同じ人でもその時々によって変化しやすく、鈍りやすいものでもあります。

 嗅覚が鈍る原因は主に蓄膿(ちくのう)症などによる鼻づまり、ウイルスなどによる感染症、薬の副作用やケガの3つです。新型コロナウイルス感染の初期症状のひとつとして、においを感じなくなることが注目されていますが、新型コロナに限らず様々なウイルスによって、においをキャッチする嗅細胞が刺激されると嗅覚は鈍ります。

 嗅細胞は鼻の奥に広がる鼻腔(びくう)の最上部、嗅上皮(きゅうじょうひ)にあります。鼻の付け根の奥のあたりです。この嗅上皮の面積が広いほど嗅覚が敏感で、わずかなにおいでもキャッチでき様々なにおいを嗅ぎ分けられます。
 においをキャッチするのは嗅細胞にある嗅覚受容体です。人間の嗅覚受容体の数は約400種類、ヒトの100万倍の嗅覚をもつといわれる犬は1000種類以上、鼻の長いゾウは嗅上皮の面積が広く嗅覚受容体は2000種類以上あるといわれています。

 ゾウはこの優れた嗅覚を使い、ゾウ狩りをする民族とそうでない民族を判別し、命を守ってきました。じつは人間の赤ちゃんも母親を嗅覚で判別しています。視力わずか0.1以下の世界で、赤ちゃんはにおいを頼りに自分にとって安全な人とそうでない人を見極めているのです。私たちが温泉地などで硫黄のにおいを不快に感じるのも、腐った食べ物の異臭を感じるのも、危険なものから身を守るための自然な反応。嗅覚は命を守るために欠かせない感覚です。

 生命維持のために発達した嗅覚ですが、現代の人間社会においては暮らしを豊かにするエッセンスとして大いに役立ちます。アロマオイルなどの心地よい香りは副交感神経を優位にし、リラックスをもたらします。おいしい食事を楽しむ際にも香りは不可欠です。花の香りや雨のにおいなどから季節や自然の移ろいを感じられるのも嗅覚のおかげです。
 記憶と結びつきが強いことも嗅覚の面白いところです。蚊取り線香のにおいで夏を思い出したり、実家の和室のにおいで幼い頃の記憶がよみがえったりしたことはありませんか? ふだんあまり意識されない嗅覚ですが、じつは人生に彩りを加えてくれる大切な感覚です。
 
 もし感染症や薬の副作用などではなく、慢性的に鼻がつまり嗅覚が鈍っているように感じる場合は、蓄膿症や鼻中隔湾曲症(びちゅうかくわんきょくしょう)の可能性があります。これらは手術などで治療でき、嗅覚も改善します。一度、耳鼻咽喉科に相談してください。
 近年は嗅覚の鈍化と認知症の関係が注目され、嗅覚の測定によって認知症の早期発見につなげようとする研究なども進んでいます。嗅覚の可能性はさらに広がりそうです。

結論 嗅覚は測定が難しいため把握しづらい感覚ですが、命を守るためにも、人生を豊かにするためにも欠かせません。慢性的に鈍っていると感じたときには、耳鼻咽喉科に相談しましょう。
医学博士・産婦人科専門医
スポーツドクター
高尾美穂さん

医学博士、産婦人科専門医、スポーツドクター、ヨガ指導者。婦人科医療、スポーツ、ヨガの3つの柱を軸にイーク表参道で女性それぞれのライフステージ・ライフスタイルに合った選択肢を提示し、女性の人生そのものをサポートしている。