仕事ゴコロ・女ゴコロ
2月

大倉陶園[デザイナー]

西舘 弘子(にしだて ひろこ)さん

美術大学を卒業後、2001年に大倉陶園に入社。オークラ•チャイナ•ペインティング•スクールの講師アシスタントを経て、06年よりデザイン室デザイナー。国家検定一級技能士。一児の母。東京都生まれ。
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創業からおよそ100年。華やかな国際舞台や数々の家族の慶事を彩ってきた『大倉陶園』の洋食器。伝統の技術とものづくりの心を受け継ぐデザイナーが大切にする“白”へのこだわり、そして“良きもの”を作り続けるための仕事術とは?

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大正、昭和、平成。こだわりの洋食器を作り続けて100年

 大倉陶園は1919年に東京・蒲田の地で創業した洋食器メーカーです。「仏国のセーブル、伊国のジノリー以上のものを作り出したし。良きが上にも良きものを」という創業者の信念のもと高級美術陶磁器づくりにこだわり続け、来年創業100年を迎えます。

 古くは1937年に政府から要請を受け『パリ万国博覧会』へ出品したり、74年には『赤坂迎賓館』の新装にあたり4820ピースもの御用洋食器を納めたり、近年では2008年『洞爺湖サミット』の晩餐会用の食器にもご用命いただきました。大正、昭和、平成と時代を越え、数多くの国内外の晴れ舞台で日本を代表する洋食器として愛用いただいています。

絵付教室アシスタントからデザイナーへ

 私は美大を卒業して大倉陶園に入社。初めは絵付教室『オークラ•チャイナ•ペインティング•スクール』のペインティングアシスタントの仕事をしていました。絵付教室といっても大倉陶園の伝統技法による絵付を5年かけて学ぶ学校です。私自身もそこでベテラン講師の手技を間近に見ながら、絵付技術を学びました。

 そして10年ほど前にデザイン室配属となり、現在は大先輩のデザイナーたちと席を並べて商品のデザインをしています。私は主にカップやお皿、インテリア商品の絵柄を担当しています。

 大倉陶園では大量生産品の開発は少なく、毎年発売する干支やクリスマスに関する商品、『コレクターズクラブ』の記念品などのほかには、企業や個人のお客様からオーダーを受けてお作りするオーダーメイド品の開発があります。加えてこの数年は創業100周年の記念シリーズの商品開発が加わり、デザイン室も賑やかな日々が続いています。

伝統技法の理解から化学的知識までが必要とされるデザインの仕事

 デザインの仕事はまず"絵紙"と呼ばれるデザイン画を作成し、それが立体の製品として完成するまでの工程を設計していきます。デザインを考えるためには、すべての絵付けの技法とその特徴を理解していなければなりません。白磁にコバルト絵具で絵付けする"岡染め"や、金色の連続模様を浮き立たせる"エンボス"など高度で専門的な技法がいくつもあります。

 また技法だけでなく、焼く前と後で色が変わる顔料や釉薬の技術なども理解していなければなりませんし、混ぜると退色する色の掛け合わせといった化学的知識も必要です。作品にどの技法を使うか、何を描くか、どうデザインするか。考えることはたくさんあります。

色々な意見に耳を傾けないと良いものにはならない

 現在デザイナーは3人。女性は私だけで先輩方は20〜25歳ほど離れています。新しい商品開発の企画が営業担当者によって持ち込まれると、大きな案件の場合は全員でデザイン画を作成。三者三様のデザイン案を出します。お客様の要望をクリアする商品コンセプトにかなった最終デザインに到達するには、何度もデザイン画を描き修正も重ねます。

 私はすんなり前に進まなくても色々な人の意見に耳を傾けながらデザインしたいと思っています。そうしないとより良いものにはなっていきません。デザイナーの先輩方の意見はもちろんのこと、実際に店頭に並ぶ姿を見届け、お客様と言葉を交わしている営業担当者の意見も貴重です。

 いつでも誰からでも意見をもらえる環境を作り、コミュニケーションを取りながらどんな意見も聞き入れて自分の中でヒントを吸い上げていく。そういう体制を整えておくことが"良きもの"に近づく一歩なのではないかと思っています。

大切な"白"をどう生かすか

 私がデザインを考える中でいつも心を配るのは白磁の"白"の美しさをどう生かすかです。100年前と変わらない原材料を使い、今も本社敷地内の窯で、世界でも類を見ない1460度という高温で焼き上げて作り出す"オークラのホワイト"。その白が生きるためには余白づかいが肝心です。

 また、本物を感じることも大切にしています。以前"軽井沢"をテーマにした6客セットのティーカップシリーズをデザインすることになった時には、軽井沢へ行き草花を調べるところから始めました。軽井沢にはどんな花がどう咲いているのか、それぞれの花はどんなポーズ、どんな表情が素敵なのか。そして、どんな6種類にしたら一揃えになった時のバランスが良いか、紅茶を淹れた時にはどう見えるのかなど考えを巡らせながらデザインを詰めていきました。この時ももちろん"白"が映えるデザインを心がけました。

 ソーサーの色も、ベージュ、淡いモスグリーン、ブルーグレーなど工場の職人とともに何色も試し焼きをして検討しました。同じ敷地内の歩いていける場所に工場があり、職人たちとじかに技術検討を重ねながら商品づくりができるのはとてもいい環境です。

伝統を受け継ぎながら、新風も取り入れて

 私は、かつて大倉陶園のデザイナー兼社長だった百木春夫に憧れてこの会社に入りました。伝統ある陶磁器メーカーのデザイン室の一翼を担っている今、まず大事にしたいのは、偉大な先輩方が受け継ぎ守ってきたものを変わらず受け継ぐことだと思っています。白を大切にすることや、本物の自然に触れながら製作することも大倉陶園の伝統のひとつだと思います。

 そして、そんな伝統を守りながら、これから先の新しい100年を見据えて、若い世代にも受け入れられるような新しい風を感じるデザインも取り入れていきたいと思っています。それが形状なのか、絵柄なのか、技法なのかはわかりませんが、個人的には新しい技法を取り入れた作品に挑戦していきたいです。

 私は食器が好きで、作り手でもありますが使い手でもあります。デザインする時にも料理が盛りつけられたことをイメージして作っています。食器は使ってこそ生きるもの。器が良いとお料理も実力以上に美味しく感じます。皆さんもお気に入りの食器があったら、ぜひ食器棚の奥にしまわずに日常的に使ってみてください。

取材後記

取材で訪れた神奈川県・戸塚にある大倉陶園の本社。敷地内は建物が低層で空が広く開放的。通路脇には様々な植物が植えられていました。「食器のモチーフとして描かれているバラをはじめ花もいっぱいです。取材が5月頃だったらキレイでしたね」と春の写真を見せてくれました。こうした環境作りも芸術と自然のつながりを重んじた創業者の思いを受け継いでのことだそう。案内いただいた展示室や併設ショップではそれぞれの食器に隠されている物語を聞き、まるで美術館を巡ったような気分になりました。

大倉陶園の歴史や技法、華麗な洋食器の数々も紹介されているホームページはこちら。 http://www.okuratouen.co.jp