仕事ゴコロ・女ゴコロ
3月

粘り強く!あの手この手で目的を達成する

京王電鉄[トリエ京王調布 副支配人]

上村 裕希(うえむら ゆき)さん

2001年、京王電鉄入社。鉄道、バス実習を経て、商業開発部で計数業務に従事。08年よりSC営業部にて沿線の商業施設に勤務の後、11年、本社所属の調布駅前開発プロジェクトのメンバーに異動。17年より現職。一児の母。兵庫県生まれ。
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この春、座席指定列車『京王ライナー』の運行が始まった京王電鉄。全線の中間、分岐点にある調布駅前には昨年『トリエ京王調布』が誕生。街を大きく変えたこの商業施設の開発を手がけ、今も現場に立つ女性副支配人の“粘り勝ち”の仕事術とは?

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快適な列車の運行、そして、魅力的な街づくり

 先月、京王線では初となる座席指定列車『京王ライナー』がデビューしました。新宿から京王八王子・橋本方面への下り電車で運行が始まり、仕事帰りに座ってゆったり帰宅いただけるようになりました。鉄道会社として、このように沿線にお住まいの方に快適な列車運行を提供することとともに力を入れているのが、駅を中心とした沿線の街づくりです。

 そんな沿線開発のひとつとして、昨年9月にオープンした調布駅周辺の商業施設『トリエ京王調布』が、私の仕事場です。この開発計画が始まった当初からプロジェクトに携わり、オープンした後も引き続き副支配人として運営にかかわっています。テナントさんの営業支援、セールや季節イベントといった販売促進のほか、施設の修繕メンテナンス、トラブル対応などの総務的な業務も行っています。

そもそも着工できるのか?

 調布駅は2012年に線路の地下化が完了し、その後、地上部の開発が始まりました。新しく地上に生まれた敷地は駅前広場を挟んで細長く3つに分かれている難しいレイアウト。その上、開発当初には「そもそも着工できるのか」という不安もありました。というのも、前年に起こった東日本大震災の影響が精神的にも物理的にも大きかったからです。

 東北の復興工事に加え、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催決定による新たな建設計画ラッシュで建設業界は大忙し。人手不足を背景に建築費はかさむばかり...。想定以上の建設費の高騰により、何度も計画の見直しを行っては収支を計算。あの頃は「コストを抑えて良い商業施設を!」が合言葉のような日々でした。

"金太郎飴"にならない魅力的なテナント誘致を!

 プロジェクトのチームメンバーは私を含めて9人で、私はテナント誘致と運営管理を担当。「どこの商業施設もお店が似たり寄ったり...」と言われがちな"金太郎飴"にならないよう、店舗の顔ぶれは"調布らしさ"にもこだわりました。また、どの区画もお客様が飽きない空間になるよう、そしてテナントさんにとっても魅力的になるよう、利用者の動線を考えながら設計図面も自分で細かくチェック。想定外のコスト増大を防ぐためには工期管理も重要なので、テナントさんとの調整を綿密に進め「この日までに出店を決断してもらわねば!」とあちらこちらを飛び回りました。

 それでも開業半年前を迎えた頃に、とあるテナントさんの内装施工会社が見つからず「今回は出店中止もやむなし...」という事態が発生。八方塞がりになり、最後は場違いの会議に無理を言って同席させてもらい、なんとかピンチを切り抜けるという冷や汗の出る場面もありました。

"思い込み"は可能性と知恵をせばめる

 このプロジェクトを通じて再認識したのは自分の"粘り強さ"でした。「絶対に達成する」という強い思いで「こっちがダメでもあっちなら...!」と、固定概念や業務の領域を越えて動くことで打破できることが何度もありました。どうしても出店をお願いしたい飲食店さんへの交渉の糸口を探して、その店で扱っているドリンクメニューを調べ、出入りの飲料メーカーさんに頼み込んでご紹介いただいたこともありました。また、一度断られたテナントさんを諦めきれず、別業態での出店を交渉し首を縦に振っていただいたこともありました。

 大きな商業施設を全国展開するディベロッパーさんと違い、この規模の商業施設の開発は社内でも数えるほど。「本当にこれでいいのだろうか?」と常に疑いながら、最善策を探すために様々な場所に足を運び、たくさんの人に話を聞きながらプロジェクトを進めていきました。チームとして「自分たちは素人」と自覚して取り組んだことも良かったのだと思います。素人なのでどんなにささやかな質問もできるのが強み(笑)。"思い込み"は可能性と知恵をせばめてしまうものだと学びました。

自分から相手を好きになることを惜しみません

 私は入社してから6年間、予算や年度計画管理といういわば裏方の仕事を続けていました。自分とはかけ離れた大きな額を書類上で動かす業務に「これは私じゃなくてもいい仕事だな...」と思ったこともありました。利益を上げられる仕事ではなかったのでとにかく営業サポートに徹し、収入増に貢献している人達にいかに気持ちよく仕事に専念してもらえるかをいつも考えていました。今振り返ってみれば、縁の下の力持ちとして大切な業務だったと感じます。

 その後、沿線のショッピングセンターに異動になり、お客様と接する現場に立つようになってモチベーションが上がったことを覚えています。クレーム処理もありましたが「私にもできることがある!」と嬉しくなりました。現場の仕事が大好きだったので、再び本社勤務になった時には「いずれ現場に戻りたい」と思っていましたが、今回の調布のプロジェクトを通じ、チームで何かをカタチにしていく醍醐味を味わい、開発という仕事にも面白みを感じています。

 どんな部署、どんな立場でも、私は上司やチームメンバーと意識をすり合わせて仕事を進めることを大事にしています。もちろん中には相性が合わない人がいることもあります。そんな時は、まず自分から相手を好きになることの努力を惜しまない。きちんと相手を見ていれば誰にでも尊敬や好意を持てる部分はあるので、そこに目を向け、感じたことを相手に伝えます。相手からも「あなたの仕事の仕方は好きじゃないけれど、人間的には嫌いじゃない」と言ってもらえれば充分です(笑)。

とても楽しかった期間限定の育児休暇

 私は仕事が好きなので、忙しくても苦痛には感じません。世の中の流れとして「長時間労働の是正」が叫ばれていますが、言葉だけが一人歩きしているようで少し違和感もあります。長時間労働の是正は必要ですが、その背景にある、働き手の健康、生産性の向上、人口減の日本の未来など、根本的な目的に目を向けなければいけないと一働き手としても感じています。

 私は3年前に出産し、9カ月間の育児休暇を取りました。その間、大好きな仕事から離れていましたが、とても楽しかったです。子育てをして、料理をして、時には旅行にも行って。それは、復職することを前提とした期限付きだったからかもしれません。

 復職後は働き方が変わりました、というより、変えました。それまで自分がやれていた仕事を人に任せなければいけない場面も出てきましたが、それを「仕方がない」ではなく「仕事のやり方を変えて自分でもできるようにしよう!」と思ったのです。まず悩んでいる時間がもったいないので「私、できます」と言って、なんとか達成する。助けてくれる人たちがいるおかげではありますが、やろうと思ってやれないことは案外少ないのではないかと思います。

地域に愛され根付いていけるように

 商業施設はオープン後が大事。今は副支配人として久しぶりの現場仕事に奮闘中です。お店というのは不思議なもので、売れるとすべてがうまく回り出し、売れないとすべてがうまくいかなくなる。商品も、サービスも、雰囲気も。だからこそ、まずはテナントさんに「売れる!」を実感してもらえるように頑張っています。

 それと同時に、どうしたら『トリエ京王調布』が地域に愛され街に根付いていけるかも長い目で見て考えていかなければいけません。鉄道会社の仕事は街に根付いているものです。今回の開発をきっかけに調布という街全体の魅力を発信し続けていけるよう、地域の方々と一緒にさらに街づくりを進めていきたいと思っています。


 

 

取材後記

転勤の多い家庭で育ってきたという上村さんは、ひとつの街に長く暮らした経験がないのだとか。「様々な街を転々としていたのですが、実は幼い頃に一度だけ調布に住んでいたことがあるんです。ご縁を感じました」とにっこり。いい街とはどんな街か?との問いには「学生時代、やりたいことがなかった私が仕事選びの決め手にしたのが『東京で暮らしていたい』という思いでした。『ここに住みたい』と思える街がいい街だと思います」との返答。就活時の意外な本音に驚きつつも、住みたい街がいい街という意見には納得です。街は人が作るもの。新年度、新しい街での暮らしが始まる人も、いつもの街で春を迎える人も、街との縁を楽しみたいものですね。

上村さんが誘致した70以上の店舗が並ぶ『トリエ京王調布』のホームページはこちら。 http://trie-keiochofu.jp