仕事ゴコロ・女ゴコロ
4月

口臭リスクチェックをきっかけにコミュニケーションを豊かに

ライオン株式会社 イノベーションラボ

尾本 さよ(おもとさよ)さん

2014年、ライオン入社。機能性食品の研究所でサプリメントの研究開発に従事した後、18年よりイノベーションラボへ。口臭ケアサポートアプリ「RePERO(リペロ)」の開発を担当。岡山県生まれ。
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健康志向の高まりのなか活況なオーラルケア市場。虫歯や歯周病に加え、若者を中心に関心が高いのが口臭だ。日本のオーラルケアを120年以上にわたり牽引(けんいん)するライオンが目下開発を進めているのが、口臭リスクを舌の画像から判定するスマートフォンアプリ「RePERO(リペロ)」。プロジェクトの中心で活躍する尾本さんに話を聞いた。

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口臭リスクを舌の画像から判定するアプリを開発中

 会話の途中で口の臭いが心配になったり、他人の口臭が気になったりしたことはありませんか? 

 創業間もない1896年(明治29年)に粉ハミガキを発売して以来、120年以上にわたり数多くのオーラルケア商品を世に送り出してきたライオンが、近年注力しているひとつが口臭ケアです。

 2017年に「口臭科学研究所」というWEBサイトを開設。現在は口臭リスクを客観的に測定できるスマートフォンのアプリ「RePERO(リペロ)」を開発中です。

BtoBからサービスを開始予定

 口臭の原因は生理的要因(口腔内の汚れ)、病的要因(歯周病などの疾患が関連)、外的要因(食べ物やアルコールなどの摂取)など様々ありますが、90%以上は胃や肺ではなく口の中に原因があります。そこで私たちは「舌苔(ぜったい)」に注目しました。

 舌苔とは舌の表面に付着する白い汚れのように見えるもの。細菌や口腔粘膜が剥がれ落ちたもので、これが口臭の原因になります。

 「RePERO」では、舌の画像を撮影して判定ボタンを押すと、人工知能(AI)を活用して導き出したアルゴリズムによって5段階で口臭リスクを判定。判定結果とともに口臭ケアの方法や口臭に関する豆知識などを提供します。

 「RePERO」はまずBtoB(企業向け)サービスとしてデビューする予定です。なぜBtoBかというと、様々なヒアリング調査をするなかで「店員の口臭が気になって買い物を楽しめなかった」「口臭のせいで会議に集中できなかった」といった声があり、ビジネスシーンでの口臭ケアの重要性を感じたからです。

必要だったのは「こっそり撮影」に適した機能

 とくに口臭ケアが売り上げやブランディングに直結するのが接客業です。そこで百貨店の協力を得て、50名の接客スタッフに「RePERO」を実際に使ってもらう実証実験を行いました。

 すると、事前に想定していた撮影方法や環境と、実際の使用状況が異なり、判定が困難になるケースが多発。多くの人が職場のトイレの個室や物陰などでこっそり撮影していたため、舌の画像をうまく撮影できていなかったのです。そこで実証実験で得られた結果を踏まえ、精度を向上させるためにアルゴリズムを改良しました。

 このほかにも、撮影音をなくし、画面のどこを触ってもシャッターが切れるようにしたほか、アプリ使用中に突然人が来た時などに撮影した画像を見られないようにするため、すぐに画面を真っ白に切り替えられるボタンも設けました。

 実際に接客業の現場で使ってもらったことで多くの改善点が見つかり、大幅に機能をブラッシュアップできました。

目指すのはコミュニケーションの活性化です

 実証実験を行うなかで注目したのが、日常的に口臭リスクを判定することで生まれる気持ちの変化です。口臭の問題はデリケートで、親しい間柄でも話題にしづらいものです。

 「RePERO」は見えないリスクを見える化するツールで、口臭をなくせるアイテムではありません。口臭ケアにはまず口臭に対して「気づき」を得て、口臭チェックを習慣化することが大事です。それを担うのがこのアプリだと思っています。

 私たちは職場や家庭で日々会話をたくさんしながら暮らしています。豊かな暮らしにコミュニケーションは欠かせません。しかし口臭に不安があると、つい顔を背けてしまったり、口ごもってしまったり、思い切り笑えなかったりします。

 「RePERO」によって口臭ケアが日常化し口臭の不安が減ることで、多くの場面でコミュニケーションが活性化することが私たちの願いです。いずれはBtoBだけでなく個人でも利用できるようにしたいと思います。

業務を掛け持ちする不安より、チャレンジする楽しさ!

 現在入社6年目。はじめは小田原研究所で機能性食品の研究開発を担当していました。その後、口臭ケアサポートアプリのプロジェクトが立ち上がり、リーダーに声をかけてもらい参加しました。

 プロジェクトの拠点である東京・江戸川区平井と小田原は物理的にも距離があり、2つの仕事を掛け持ちすることに不安はありましたが、新しいことに挑戦したい、視野を広げたい、という気持ちが勝りました。

 プロジェクト参加を決めると同時に「新たな業務が加わっても本来の業務でやるべきことは絶対にきちんとやる」と心に決めました。

 2018年にイノベーションラボという新規事業を創出する部署が発足し異動、「RePERO」開発の専任になりました。研究職のみならず社内の多様な部署から人が集まるイノベーションラボは、自由な発想に満ちていて刺激的です。専門知識をもつメンバーが多く、わからないこともすぐに相談でき、お互いの知識を持ち寄りながらプロジェクトを進められます。

アルバイトで経験したクレーム対応から得た教訓

 新規事業では、研究、商品づくり、営業などを一貫してやらなければならず、担う業務がとても幅広いです。また当然ながら既存事業以上に社内の了承を得ていくのが難しいというハードルもあります。

 社内各所の担当者に納得してもらうには、なぜこのアプリを実現させたいのか、なぜこのサービスが必要なのかを伝えるリサーチ力やプレゼン力が必要です。ロジックも大事ですが、何度も直接会って対話することの大切さを感じています。

 対話する際に肝に命じているのは「相手の立場に立って考えること」。部署が違えば考え方もルールも違います。相手が置かれている状況を理解し、その人が抱えている課題は何か、具体的にどこがネックになっているのかを推察して対話を重ねていくことが重要です。

 学生時代、旅館の仲居のアルバイトでお客様のクレームに対応した経験が何度かありました。クレームを訴える背景はそれぞれです。その人がなぜそれほど怒っているのかをよく考えて対処することが、解決への近道であることを学びました。

ライフイベントを満喫し仕事にも生かしていく

 人とコミュニケーションをとりながらものごとを進めていくのは得意なほうだと思っています。コミュニケーション力と、事業領域を越えて新しいことに挑戦するイノベーションラボでの経験を生かし、いずれは自分でテーマを考え、興味を持ってくれる仲間を集めて新たなチャレンジをしたいと思っています。自由な発想で新しいことを生み出していく動きを社内に広げていきたいです。

 女性にとって25歳から35歳はライフイベントが多い時期です。ライオンは、生活者の日常を支える会社ですので、自分がこれから迎える様々なライフイベントを満喫し、そこで得た気付きを今後の仕事に生かしていきたいです。

取材後記

隅田川と荒川の間に残る旧中川のほとりにある事業所で行われた取材。かつてここは工場で、水運を利用して原料や商品を運んでいたそうです。研究者としての理系の頭脳とコミュニケーション力を兼ね備えた尾本さん。「辛いことがあってもまだ頑張ろうと思えるのは、故郷の父が『いつでも帰ってきていいよ』と言ってくれる安心感のおかげかも。社会人として尊敬できる存在です」とのこと。最高の先輩であり応援団に支えられ、のびのびと働く姿、晴れやかな笑顔が印象的でした。

ライオン「口臭科学研究所」のホームページはこちら https://kousyu-lab.lion.co.jp