仕事ゴコロ・女ゴコロ
6月

45日で売り場を模様替え。企画を打ち切る勇気も必要です

東急ハンズ 渋谷店グループリーダー

末廣 三知代(すえひろみちよ)さん

1998年、東急ハンズ入社。新宿店にてDIYフロアを担当。2005年より庶務課。12年より渋谷店にてバッグ&トラベル、ステーショナリーなどのフロア主任・マネージャーを歴任。17年より現職。東京都出身。
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数年前のハンドメイドブーム以来、DIYやハンドクラフトを日常的に楽しむ人が増えている。DIY素材から生活用品まで幅広い品揃えの東急ハンズは、国内外に53店舗を構える都市型大型雑貨店の老舗。ネットショップが興隆する時代に実店舗でモノを売る醍醐味、小売業の舞台裏など、21年のキャリアの変遷とともに末廣さんに聞いた。

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手作りの楽しさを支えて43年

 東急ハンズの創業は1976年で、現在ある店舗の中では私が働いている渋谷店が最も古く1978年に開店しました。木材や金具、工具など手作りに関連するパーツ類を揃えるほか、ステーショナリー、生活用品、パーティーグッズに至るまで、幅広い商品を扱っています。

 若者の街として知られる渋谷ですが、渋谷店は今40〜50代以上の男性のお客様が主で、次に多いのはインバウンド(外国人観光客)のお客様です。売り場では、ワークショップイベントが軒並み人気。自分で作ることを楽しむ人が多いことを感じます。逆に以前ほど売れないのがキッチングッズ。共働きの世代が増え、外食するだけでなくお惣菜などをテイクアウトする中食が増えたことなど、生活スタイルの変化が影響していると思います。

初めて担当した商品はDIY売り場のキャスター

 入社して21年。新宿店と渋谷店を通じて、ほぼ全ての売り場を経験してきました。初めて配属されたのはDIY売り場の金物部門。キャスターの担当でした。

 キャスターの知識を持ち合わせていなかった私は、カタログを読み漁ったり、メーカーさんのところへ勉強に行ったり、先輩に教えてもらったり。お客様にも随分育ててもらいました。教本やマニュアルはなく、今で言うOJT(現場実務を通じたトレーニング)で全てを身につけていきました。

 その後も、フック、郵便ポスト、網戸、懐中電灯、スタンドライトなどを担当。担当商品が変わるたびに勉強し、知識と売り場経験を増やしていきました。

自分で仕入れて、自分で売る。ない商品は自分で作り出す!

 大規模店舗を複数もつ総合小売店の業界では、仕入れと販売は分業するのが一般的ですが、当時の東急ハンズは商品ごとに細かく担当が決まっていて、担当者がそれぞれに仕入れ、発注、陳列、接客を行っていました。

 商品は担当者が自分で選び仕入れるため、店舗によって品揃えが違うのは当たり前。同じ東急ハンズでも別店舗はライバルのような存在でした。自分で仕入れて、自分でPOP(売り場に掲げる宣伝文句)を考え、自分で接客してモノを売る仕事はとても楽しかったです。

 室内照明を担当していた時に、シャンデリアやランプシェードがはやったことがありました。1万円以下で手軽に買える商品へのニーズを感じ、商品製造元と共に布問屋へ行きキラキラ感のあるラグジュアリーな布を購入。オリジナルシェードを商品化して販売したところ、これが大好評。別店舗から「うちでも売りたい」とオファーがくるほどのヒット商品になりました。

自由度が高すぎたゆえの落とし穴と時代の変化

 このように、売りたい商品がなければ担当者がオリジナル商品を開発することも普通でした。今以上に、売り場の担当者に裁量権があり、「やってごらん」というムードが色濃く、自由度が高かったです。

 ただし、それぞれが売り場の責任者として自由に立ち回れる分、落とし穴もありました。例えば、目の前のお客様から相談を受ければ「なんとかしてあげたい」と思い、メガネや懐中電灯の修理に無償で対応。気がつけば1時間接客をして売り上げが100円のネジ1本というようなことも。また、商品への思い入れが強いあまり、1年に1個しか売れないものをずっと棚に並べていたこともあり、それが良しとされてきました。それでは商売は立ち行きません。

 2000年代以降のネットショップの台頭もあり、大規模小売業は苦戦を強いられるようになります。時代の変化に応じ、私たちも変化していきました。バイヤーと販売員の分業を図ったり、マーケティングデータを商品管理にいかしたり、小型店舗の開発で新たな顧客層の取り込みにもチャレンジしました。

なぜ私が? まさかの異動で売り場を離れる

 そんな変革期、私は売り場を離れ新宿店の庶務課へ異動していました。辞令を受けたのは、数々の商品を担当しモノを売る楽しみを感じていた入社5年目。バックオフィスへの異動はまさに青天の霹靂(へきれき)でした。あの時のショックはいまだに忘れられません。「なぜ私が?」「売り場に戻りたい」という気持ちを抱えながら働いていました。

 気持ちが切り替わったのは、採用業務に携わるようになってからです。表現は悪いですが「モノではなく人という大切な商品を仕入れ、育てる仕事なのだ」と思ったのです。

 人事改革によりスタッフが大きく入れ替わり、私は契約社員の採用も担当することに。面接や、研修のテキスト、プログラムづくりに奔走しました。次々と入社してくる多様なタイプの人に、東急ハンズの哲学や販売スタイルを浸透させるにはどうしたらいいか悩みました。なかには「自分には合わない」と1日で辞めてしまう人もいて、人事の仕事の難しさを感じました。結果7年間、庶務課に在籍。今振り返れば、いい経験をさせてもらいました。

今、実店舗でモノを売る意味

 晴れて、売り場担当に戻ったのは10年前のこと。仕入れの制度も販売スタイルも以前とは変わっていたうえ、時代はネットショッピングが当たり前になっていました。久しぶりの売り場、しかも異動と同時に主任へ昇格。不安と緊張のなかで2回目の売り場時代がスタートしました。

 担当したのはスーツケースでした。売り場に立って数日後、スーツケース選びに迷っているお客様が来店。私はまだ商品知識が追いついておらず、お客様と一緒にひとつずつスーツケースを開け、機能や使い心地を確認しながら検討をしていきました。最後に「今日は買わない予定だったけれど、あなたから買うよ」と言って購入されたのです。これが実店舗の対面販売の意味だ、と思いました。

 例えば、DIY売り場で「2つの木を垂直につなげたい」というお客様がいれば、釘、ネジ、L字金具、接着剤など様々な選択肢を一緒に検討できます。答えは必ずしもひとつではありません。商品や手段を選ぶコンサルティングをできるのが実店舗での魅力であり、販売員である私たちのいる意義だと思っています。

勇気ある撤退をして早めにリカバリー

 私が統括しているフロアでは、約45日ごとに売り場を大きく模様替えします。模様替えを行う間隔はグループリーダーの考え方によって異なります。模様替えは、閉店してから翌日のオープンまでに行わねばならない大仕事。現場は大変ですが、売り場づくりは楽しいです。

 私は先々のビジョンを描くよりも、目の前のことを一生懸命にやるほうが好きです。もちろん仕事では中長期的な販売計画を立てて動きますが、店頭の企画でも、まずやってみます。

 ただし、反応が鈍かったり売り上げが見込めなかったりしたら、早めに打ち切る決断をします。もちろん関係各所との約束ごとなどもありますから、規模を縮小したり、形を変えたり工夫をしながらですが、ダメとわかったものをそのままにはしません。勇気ある撤退をして早めにリカバリーし、大きなダメージにしない。そうすることで、また新しいチャレンジができます。

 一度売り場を離れたからこそ強く感じますが、自分が担当する売り場でモノが売れていくのは本当に嬉しいものです。新商品を陳列した時のドキドキワクワク感、目の前のお客様に喜んでもらえる嬉しさはこの仕事の醍醐味だと思います。そうした魅力を後輩たちにもっと伝えていきたいです。

母の介護が、仕事にもプラスに働いています

 勤務体制はシフト制です。私は2週間に1度、2.5連休を取っています。母の介護のために片道約8時間かけて実家の愛媛県へ帰るためです。2012年からこの生活を続けていますが、これが思いがけない仕事のヒントをもたらしてくれています。

 移動中に読んだ情報誌で魅力的な商品に出合い新商品として取り扱いが始まったり、田舎の祖父が手入れする盆栽の美しさに感動して「盆栽カフェ」を企画して大きな話題を呼んだり。東京と愛媛を行き来する暮らしは楽ではありませんが、大切な時間です。休みを確保するために早め早めに仕事をするようになり、働き方も変わりました。母の存在は頑張るモチベーションのひとつにもなっています。

 人事異動や家族の出来事をはじめ、突然ふりかかってくる大小様々な課題はありますが、ゲームをクリアするように楽しみながら一生懸命乗り越えていくと、いろんなことがプラスに働いてくれる。そう感じています。

取材後記

「ハンズの社員はこだわり派でマニアックな人が多いです」と笑う末廣さん。取材を行った部屋にかかっていた絵の留め具(会社の備品)を見て「これじゃなくて、もっといい金具があって……」と話し始めた姿は、まさに発言通りのハンズの人でした。自転車売り場以外はすべて経験したという末廣さんに、もう一度担当したい売り場を伺うと「DIY売り場」と即答。「DIYの裾野が広がり100円均一ショップなどの素材で手軽に手作りを楽しむ人が増えました。少しだけ素材やディテールにこだわると、ぐっと素敵なものができます。自分が作ったお気に入りのものに囲まれた暮らしをもっと多くの人に楽しんでほしいです」

「東急ハンズ」のホームページはこちら https://hands.net