仕事ゴコロ・女ゴコロ
12月

上白糖は日本の技術の賜物。砂糖への誤解をなくしたい

三井製糖株式会社 砂糖事業本部 課長

山﨑 賞子(やまざきしょうこ)さん

菓子メーカーの商品企画を経て、1990年、三井製糖食品株式会社に入社し商品設計に従事。94年、合併により三井製糖株式会社へ。2019年より現職。山口県出身。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

料理に欠かせない基礎調味料のひとつである砂糖。安定した需要はあるものの、健康志向による糖質制限ブームなど逆風続きで、家庭用砂糖の消費量は右肩下がり。なかでも長年日本の食卓を支えてきた上白糖が苦戦を強いられている。そんな砂糖業界の最新事情や商品開発の舞台裏を、スプーン印がトレードマークの三井製糖で、30年間商品企画に携わる山崎さんに聞いた。

2019_12_collage.jpg

家庭向け砂糖市場は多様化しています

 皆さんはご自宅でどんなお砂糖を使っているでしょうか? 塩や醤油(しょうゆ)、味噌に比べると、砂糖はあまり減らない調味料ではありませんか? 近年、家庭向けの砂糖の需要は減っています。

 理由は主に3つあります。第1に食生活の変化です。砂糖が料理に使われるのは主に和食ですが、家庭での和食離れが進んでいます。また、共働きなどを背景に時短調理が人気です。砂糖、醤油、酒それぞれを使って料理をするよりも、麺つゆや合わせ調味料などを活用する家庭が増えました。第2に核家族化。家庭で作る料理の量が減ったことが家庭用調味料の消費量を低下させています。そして第3に、この数年で砂糖へのネガティブなイメージが広がったことが影響しています。糖質制限ブームに加え、自然派志向やマクロビオティックなライフスタイルの流行により、とくに白いお砂糖を敬遠する人が増えています。

 甜菜(てんさい)糖やさとうきび糖などのブラウンシュガー市場は伸長しています。健康ブームのなかで腸内環境が注目されるようになり、オリゴ糖も人気が高まっています。お菓子作りに欠かせないグラニュー糖も堅調です。砂糖へのニーズが多様化し、ひとつの家庭で数種類の砂糖を使い分けるのが当たり前になっているようです。

 業務用や外食用などBtoB市場は微減傾向で、家庭用ほど厳しい状況ではありません。麺つゆなどを作るためには砂糖が必要ですし、ペットボトル飲料や缶コーヒーなどのドリンク類でも高い需要が続いています。

スプーン印の新商品を考え続けて30年

 三井製糖は、社名よりも「スプーン印」で知られています。スプーン印のお砂糖は、女性の9割が知っているという認知度調査の結果もあります。赤と白の上白糖は、今年誕生から60周年を迎えました。私たちにとってスプーン印ブランドは宝物であり、お客様へ安心と信頼を約束する証でもあります。

 私は入社以来30年間、ずっと商品設計の仕事をしています。現在新商品の開発は、商品開発会議という社内各部署が集まる会議を中心に進みます。加えて、これまで蓄積してきたアイデアのデータベース、商談からのヒント、お客様からいただくご意見などをもとに、新商品を考えていきます。様々な意見を吸い上げ商品の骨子をまとめ、商品化を目指すのが私たちの役目。発売時には宣伝PRも担当します。

 砂糖はとてもシンプルな調味料です。手を変え品を変え、アレンジを重ね、次々と新商品を送り出す業界ではありません。ユーザー調査でも砂糖に対しては保守的な意見が多く、当たり前の存在ゆえに無意識に使っている人が多いのが実情です。新商品を考える際にも、安心して使える砂糖らしさ、シンプルさは欠かせません。

一筋縄ではいかなかった少量パッケージ

 定番の上白糖をはじめ4種類の砂糖で、400g入りの新パッケージとして「チャック付き スタンドパックタイプ」を2018年に発売しました。従来の1kg入りの商品について「量が多くて使いきれない。輪ゴムで結んでいるけれどベタベタになる」といったご意見は以前から多かったのですが、なかなか新パッケージに踏み切れませんでした。数十年越しで実現したといっても過言ではありません。

 なぜ簡単ではなかったかというと、1kgの砂糖商品が長年にわたって非常に安く販売されてきたことが関係しています。昭和の時代から、砂糖はスーパーの特売の目玉商品でした。安価で提供できたのは、スーパーの販売戦略と、効率化を極め大量生産を可能にしてきた安定した製造ラインやシステムのおかげです。新規商品は新たな設備投資が必要なこともあり、最初はどうしても割高になります。1kgから400gへ内容量が半分以下になりグラム単価が上がるというのは商売としてどうか、という意見が根強かったのです。

 家庭用の醤油や塩のパッケージが少量化していくなか砂糖は遅れていました。なんとか状況を変えたいと少しずつ社内の理解を広げ、地域限定販売を経て、ようやく実現しました。おかげさまで好評で、食生活の変化だけでなく消費意識の変化も感じています。

出産のたびに女性を取り巻く時代の変化を感じました

 私はじつは転職組です。大学を卒業して東ハトという菓子メーカーに入社し、商品企画を担当していました。2年半ほど勤めたのですが、あまりにめまぐるしく多忙な日々に限界を感じ、三井製糖の子会社だった三井製糖食品へ転職。その後、合併を経て三井製糖の所属となりました。

 30年前の製糖業界の女性社員といえば皆、良家のお嬢様ばかり。就職の条件のひとつが実家暮らしだったほどです。結婚と同時に会社を辞める寿退社がほとんどで、日々のお茶汲みが仕事という女性もいました。そんな時代に私のように女性が商品企画を手がけることは珍しかったです。

 結婚しても子供ができても仕事は続けたいと思いました。3人の子供を出産しましたが、1人目を生んだ27年前は会社に育児休暇制度ができたばかりでした。制度はあるものの長く休める状況ではなく、産後3カ月で職場に復帰。会社で母乳を絞っていました。

 産婦人科で同室になった女性からは「赤ちゃんがかわいそう」と言われたことを覚えています。夫の母も私が幼子(おさなご)を保育ママさんに預けて働くことに賛成ではなかったです。でもとてもやりがいのある仕事で、自分の代わりはいないと感じていたので、早く職場に戻りたい思いが勝りました。

 その後、5〜6年おきに2人の子を出産しました。その間、働く女性を取り巻く環境は変わっていきました。3人目を産んだ16年前は、育児休暇を1年以上取って復職する女性も増えていました。私は子供3人には平等にしたいと思い、3人目の時にも3カ月で仕事に戻りました。

砂糖への誤解がなくなるように

 今も昔も、私を仕事に向かわせる原動力は「必要とされている」という喜びだと思います。自分がいないと商品企画が進まない、商品が生まれない。苦労して新しい商品を無事世に送り出せた時には、大きな達成感があります。もし仕事をしていなかったら、なにで自分というものを保てるのだろうかと思うほどです。

 女性管理職が少なかったこの業界も時代の変化に伴い変わりました。私は管理職を志望してはいませんでしたが、後輩の女性たちのためにもまずは自分が上にいかなければと考えを改め、チームを率いる立場にいます。お砂糖のユーザーもまだまだ女性が多いですし、女性の目線をさらに商品設計に活かしていきたいと思います。

 また、今は砂糖にとって逆風の時代ですが、砂糖への誤解はなくしたいと思っています。とくに白い砂糖の名誉を回復していきたいです。上白糖は日本特有の砂糖で、世界屈指の精製技術を持つからこそできるもの。砂糖はもともと無色透明の結晶です。白い砂糖もブラウンシュガーも植物原料100%で、サトウキビとてん菜という同じ原料で作られています。ライフスタイルや用途にあわせ、多様な砂糖を楽しんでもらうために、正しい情報を発信することも私たちの大切な役目だと思っています。

取材後記

山崎さんの襟元に光る小さなスプーンのピンがとても可愛く目に留まりました。「社章ではないのですが全員持っています」。トレードマークへの愛情を感じました。そんなスプーン印ブランドを前面に出さない「整(ととのえ)オリゴ」という新商品のネーミングの舞台裏を伺うと、「『スプーンオリゴ』などの案もあったのですが、最終的にはインパクト重視で決めました」とのこと。消費者の反応はいかに。

「三井製糖」のホームページはこちら https://www.mitsui-sugar.co.jp