仕事ゴコロ・女ゴコロ
4月

自分だけでは燃え続けられないから、薪をくべ合って

知的家事プロデューサー

本間 朝子(ほんまあさこ)さん

不動産会社、フードプランニング会社を経て、独立。仕事と家事の両立に苦労した経験から、家事を効率化するメソッドを考案。『ゼロ家事』『写真でわかる!家事の手間を9割減らせる部屋づくり』など著書多数。千葉県出身。
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仕事を持つ女性が増えるなか、女性が1日に家事に費やす時間はなんと2時間24分※1。近頃は家族みんなで家事をする「家事シェア」が広がっているものの、いぜん多くを女性が担っている。働く女性たちの家事の負担を減らそうと、効率的な家事のあり方を提唱する本間さん。どのような経緯や思いから、知的家事プロデューサーとしての今があるのかを聞いた。

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働き続けるための「家事の効率化」

 知的家事プロデューサーとして「家事」をテーマに様々な活動をしています。家事を効率化することの意義や方法を伝えるための執筆や講演活動を中心に、ホームセンターとともに時短商品を開発したり、ハウスメーカーと家事動線のいい間取りを考えたり。近年は、働き手不足を背景に、自治体や企業からの依頼で、家事と仕事の両立方法やライフプランの考え方などをお話する機会も増えています。

 時代が変わりつつあるとはいえ、家事の担い手はまだまだ女性が中心です。結婚や出産を機に仕事を辞めたり、それまでのポジションを手放したりする女性は少なくありません。働き続けるためには家事と仕事の両立が不可欠で、そのために役立つのが家事の効率化です。

長い人生、じつは家事への投資は経済的

 料理や掃除の時短術も家事の効率化のひとつですが、重要なのは大きな視点で全体を見渡した効率化です。例えば、長い人生を経済的な面から考えてみます。仮に、31歳と34歳で2人の子供を産んだ女性がいます。育休を1年ずつ取りフルタイムの正社員として60歳まで働くと、生涯所得は2億3008万円。一方、1人目の出産を機に退職し、2人目の小学校入学と同時にパートに出て60歳まで働いた場合、生涯年収は6147万円。その差は1億6000万円以上になります※2。

 人生を通じて誰もが長く働き続ける時代。便利な家電を導入したり、代行サービスでアウトソーシングしたり、家事にお金を使うことは仕事を辞めてしまうより経済的です。怠けや贅沢(ぜいたく)ではありません。自分の時間を有意義に使い、楽しく働き続け、暮らしていくことはとても大切です。

段取りが悪く、家の中は散らかり放題・・・・・・

 私が家事の効率化を考えるに至ったのは、家事に心底苦しんだ経験からでした。20代後半で結婚した当時、不動産会社の企画営業として忙しい日々を送っていました。残業が当たり前の時代でしたし、働くことが好きでした。急いで帰宅して夕飯の支度をするのですが、段取りが悪くて料理が同時に出来上がらなかったり、見渡せば家の中はグチャグチャだったり。イライラが溜まり思わずしゃもじを投げてしまったこともありました。

 いったい家事はどこで学べるのだろう?と調べても、料理学校はあっても家事全般を学べるところは見当たらず、インターネットでも欲しい情報には行き当たらず、「誰か助けて!」と思いながら、会社は辞めました。そして、夜間の調理師学校に通い、昼間はフードプランニングの会社で働きました。

家事効率化のヒントはビジネス書にあり

 幼い頃からキャリアウーマンに憧れ、かつて秘書の仕事に就いたこともある私の趣味は、ビジネス書を読むこと。とある本で紹介されていた工場の生産性向上メソッドを読んでいた時、「あれ?これは家事にも当てはまるのでは?」と思ったのです。

 家事にはルーチンの動きがあります。家事の流れをよく観察し効率化を考え、家の中をカスタマイズしてみようと、まずはキッチンのハサミを入れてある引き出しひとつから整理しました。料理の効率化から始め、徐々に洗濯、掃除へと範囲を広げ、家事全体の流れを意識して、家電や家具のレイアウトを変えながら改良を重ねていくと、みるみる家事が楽になっていきました。この経験を家事の効率化メソッドとしてまとめたことが、現在の仕事につながっています。

みんなに伝えたいのに、広がらない、響かない

 家事に悩む多くの人に、この家事の効率化メソッドを伝えたいと思い、情報発信と共有の場としてセミナーを開きました。最初は友人たちが集まる数人の会でしたが、口コミで広がり20人ほどが月に1回集まるようになり、活動に注目してくれる企業も出てきました。それでもこの活動を生業(なりわい)にできるほどではなく、参加者も増えてはいきませんでした。

 一方、会社では食品メーカーの商品PRのためのレシピ開発を担当。忙しい日々を送っていました。家事効率化のアイデアを仕事にも活かそうと、手軽にできる簡単レシピ、今でいう時短レシピを提案。しかしクライアントに好評なのはひと手間かけるアレンジレシピばかり。男性社会の食品業界では「手軽=手抜き」と取られてしまい、コンペに落ち続けました。

「時短」ブームで、風向きが変わった

 家事の効率化という考え方が伝わらない、広がらない、悶々とした二足のわらじ生活は3年ほど続きました。セミナー活動を止めることも考えました。でも、「家事の効率化は、手抜きではなく工夫であり、怠ける方法ではなく知的な発見。みんなに知ってほしい。家事への考え方やイメージを変えたい」という思いは消えず、応援してくれる女性たちに励まされ、もう一度ギアを入れ直す思いで「知的家事プロデューサー」という肩書きを名乗ることにしました。33歳の頃です。

 風向きが変わったのは、それから数年後のことでした。クックパッドなどのレシピ投稿サイトが広がり、女性たちがリアルなお手軽料理を公開し始めました。働く女性たちの声がSNSなどを通じて行き交うようになり、「時短」ブームがやってきたのです。知的家事プロデューサーとして雑誌で取り上げられたことをきっかけに、取材が殺到。テレビに出たり、本を出版したりと次々に活動が広がっていきました。

覚悟がない人間の言葉は届かない

 自分が飛び抜けた何かを持っているとは思っていませんし、表に出たいタイプではなく裏方が好き。そんな私が今に至ることができたのは、周囲の人たちが応援してくれたり、背中を押してくれたり、喝を入れてくれたりしたからです。メディアに出ることをためらっていた私に「自分がリスクを負う覚悟もなく、人に何かを伝えたいなんて。そんな人の言葉が届くはずない」と先輩女性たちに言われたことは忘れられません。その通りだと思いました。

 人はそれぞれ違うという多様性を認めていながら、いざ講演をする時には全員からの高評価を追い求めてしまう、自分の中のあった矛盾にも気づかされました。主張のある発言に全員がうなずくのはむしろ不自然であると感じてからは、講演の評価を無駄に恐れることもなくなりました。

仕事って素晴らしい

 仕事を通じて気づかされることが本当にたくさんあります。人として成熟するために私は働いているのかもしれません。死ぬまで働き続けたいと思っています。そのためには薪を探し自分を燃やし続けていきたいですが、1人では限界があります。でも、誰かと話すこと、みんなで考えることで、思いもよらないアイデアが生まれたり、頑張れたりします。「働き続ける人たちを、家事の効率化で支えたい」という根っこを忘れずに、出会う人たちに薪をもらい、こちらからもお返しをしながら、活動を続けていきたいと思っています。

※1 2016年社会生活基本調査
※2「大学卒女性の働き方別生涯所得の推計」/2017年6月号「ニッセイ基礎研所報」

取材後記

多数の著書を持ち、メディアからも企業からも引く手数多の本間さん。時折「どうしたら、そんなふうに活躍できますか?」と聞かれるそうです。「人に何かを伝えるには時間がかかります。登山と一緒でいきなり頂上にはたどり着けません。低いところから小さく始めて、自分の価値を確かめながら、役に立つと思ってくれる人がいると信じ発信を続けること。あとは、時代の流れもありますし」と笑います。活動の始まりとなった月に一度のセミナーは、今も続いているそうです。

本間さんのホームページはこちら http://honma-asako.com