仕事ゴコロ・女ゴコロ
8月

地味でつまらないことこそ大切に。美髪は1日にしてならず

毛髪診断士/メノポーズ(更年期)カウンセラー/サプリメントアドバイザー

元井里奈(もといりな)さん

システム開発会社、外資系医療機器メーカー勤務を経て、2010年から家業の東栄新薬株式会社へ。14年サプリメントアドバイザー、メノポーズカウンセラー、17年毛髪診断士の資格を取得し髪の専門家として活動を続ける。東京都出身。
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新型コロナウイルス感染拡大の影響が続くなかでも繁忙が続く、美容室をはじめとするヘアケア業界。髪はその人の見た目年齢や印象を左右する大切な要素で、手入れされた髪は清潔感を出すのにも欠かせない。毛髪診断士などの資格をもち科学的、生理的、栄養学的な側面から髪にアプローチし様々な発信を続ける元井さんに、ヘアケアの最前線やキャリアの変遷について聞いた。

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髪に関わる多くの資格をもつ専門家

 毛髪診断士やメノポーズカウンセラーという専門職があることをご存じでしょうか? 毛髪診断士とは髪に関する知識と髪の状態を科学的に判断する技術をもった専門家のことです。メノポーズカウンセラーは女性の更年期について症状やその予防策、医療制度などを理解し正確な情報を提供する役目を担っています。サプリメントアドバイザーは栄養学の知識をもちサプリメントで健康をサポートします。

 私はこれらの資格をもち髪のプロフェッショナルとして、毛髪カウンセリングやヘアケア情報の発信をしています。カラダの内側から髪へアプローチするサプリメントの研究開発などもしています。

注目が集まる女性の「ヘアロス」

 髪の悩みというと男性の薄毛に関するものが多く、女性の髪の悩みはあまり表に出てきませんでした。しかし近年「ヘアロス」という言葉の広がりとともに女性の薄毛も注目されるようになりました。

 髪の生育には女性ホルモンが大きく影響するため、女性の多くが更年期を迎える40〜50代に髪質が変化します。この頃に白髪が増える方も多いです。女性の髪の一生を考えたとき、より深刻な悩みとなるのは白髪よりも髪のボリュームが失われるヘアロスです。1日あたり50〜100本の髪の毛が抜けるのが一般的ですが、抜け毛が増え続けると女性でも薄毛になり、自然回復は困難です。

 髪は生命維持に直結しないため変化が表れるのが遅く、良くも悪くも変化を感じられるようになるまでに約6カ月以上かかると言われています。髪に疲れが出てきたときにはすでにかなり疲労困憊(こんぱい)していると考えられますし、逆に髪のコンディションを良くしたいならば、半年以上かけてカラダ全体を健やかにしなければ根本的な改善は望めないということです。ヘアケアには表面的なことだけではない奥深さがあります。

はじまりは父の仕事を手伝いたいという思い

 私が髪の専門家として活動するきっかけは父の仕事でした。父は薬学博士で、自ら小さな製薬メーカーを興し今も研究を続けています。幼い頃から父が研究する姿を見て育った私は、いつかその仕事を手伝いたいと思っていました。
 
 学生時代は大手企業に勤めることへの憧れもありましたが、いずれ父の会社で働くために幅広く仕事を経験しておこうと、30人規模のシステム開発会社に就職。小さな会社だったので、あらゆる仕事に携わることができました。3年ほど勤めた後、外資系の医療機器メーカーへ転職しました。文化の違うグローバルなビジネスやマネジメントを学びたいと思い、社長付きの営業補佐として働き、27歳のときに父の会社に入社したのです。

女性が年齢を重ねてもずっと奇麗でいるために

 父は学者肌で営業や販売が不得手。素晴らしい研究をしているのにその良さをうまく広めることができていませんでした。そこを私が補いたいと思いました。父が長年研究している薬用成分には様々な効用があり、そのひとつとして毛髪への効果が認められていたので、そこに着目しました。私自身が美容に興味があったこと、また、寿命が延びている日本で女性が年齢を重ねてもずっと奇麗でいることの大切さを感じていたことが理由です。

 女性のためのヘアケアサプリメントを10年ほど前に開発し販売を始めました。しかし当時は育毛剤や育毛シャンプーなど外側からのヘアケアが主流で、男性向けのものばかり。女性向けで、カラダの内側から髪を育むインナーヘアケアはまったく注目されませんでした。この数年、ようやくニーズが高まり、うれしく思っています。

自分たちの不得手を認めパートナーと共にビジネスを広げる

 まだまだビジネスとして大成功とはいえませんが、間違っていなかったと思えることがいくつかあります。1つ目は「この薬用成分は何にでもいい」ではなく、髪に絞って活動をしてきたこと。専門性をもち情報を正しくピックアップして、順序立てて発信していくことは大切だと思います。

 2つ目は私が営業に乗り出したとはいえ、うちの会社は研究開発が専門で販売は苦手なので、一緒に広げてくれるパートナーさんを探し「餅屋は餅屋」でおまかせして二人三脚でビジネスをしたこと。全部を自分たちでやろうとしないほうが可能性は広がると思っています。

 3つ目は私が髪の専門家として独立して活動していること。いわば「二足のわらじ」で仕事をしているのですが、双方にいい影響があります。ヘアケアカウンセリングで悩みを直接聞けますし、毛髪診断士としてブログやインスタグラムなどのSNS(交流サイト)で情報発信するなかで皆さんから様々な質問が寄せられます。それらを製品づくりにフィードバックできます。貴重な意見をいただく代わりに、私がもっている髪の知識を提供する。そこに金銭のやり取りはありませんが、ウィン-ウィンの関係が成り立っています。

SNSによる情報発信は難しい

 最近は多くの企業が広報宣伝活動にSNSを利用していますが、影響力があるだけに発信にはリスクがあります。私もいつもドキドキしながら発信しています。髪の毛は美や若々しさの象徴でもありますが、一方で不潔に感じるものでもあります。あるとき、私のインスタグラムを見た友人から「急に髪の毛の画像が出てきてびっくりした」と言われたことがありました。不快にさせてしまったかもしれず配慮が足りなかったと反省しました。

 細かいことですが、1枚目の写真では髪の画像をぼかし、次の画像で詳しく紹介する旨を記載して鮮明な2枚目を用意するなど、不特定多数の目に届くSNSだからこその気遣いが必要だと思います。100人中100人に好かれることはできませんが、できる限り不快な思いをする人がいないよう気を配っていきたいと思っています。

就寝前のわずかな時間でリフレッシュ

 家では2児の母として育児に追われています。下の子はまだ1歳になったばかりです。家族も仕事も大切にしたいので、自分も頑張れるだけ頑張りますが、頼れるところは遠慮なく周囲に頼ります。夫、両親、義理の母、保育園の先生、会社のスタッフさん、そして子供たちにも甘えさせてもらっています。感謝しかありません。

 今は自分のためだけに使える時間は本当にわずか。就寝前の10分くらいしかありませんが、その時間に漫画を読むことでリフレッシュしています。昔から漫画が大好きで、もしも自由な時間がたくさんあったらずっと漫画を読んで過ごすと思います。私にとって最大の娯楽です。

奇麗でいることを楽しむ人生はすてき

 ヘアケアの世界も日進月歩で研究が進んでいます。例えばAGAとFAGA。男性の薄毛・抜け毛の症状を指すAGAの頭に「F(Female)」をつけたFAGA(女性男性型脱毛症)という言葉が数年前から使われていますが、最新の研究で女性の薄毛の原因が男性のそれとは異なることがわかりました。しかし、FAGAという言葉はまさに今広がりをみせていて、新たな事実と、一般に浸透しつつある言葉にギャップが生じてしまっているのです。正しい情報を素早く広く伝えることの難しさを感じます。

 ヘアケアにも思い込みともいえる情報は多いです。皮脂は悪者扱いされがちですが、じつは最高の保湿成分。洗いすぎによる皮脂の喪失は頭皮や髪のダメージにつながります。私は2日に1回しか髪を洗いません。

 美しい髪づくりに最も大切なのは食生活や運動、睡眠など地味でつまらない日々の生活習慣の改善です。それを頭でわかっていてもなかなか行動を変えられないのが人の常ですが、不調がないうちに対策に乗り出すことが後々大きな財産になります。女性は必ず更年期を迎え、髪質の衰えを感じます。その前に生活を整えておいて損はありません。奇麗でいることを楽しむ人生はすてきです。多くの女性がそんな人生を送る手助けができるよう、これからも髪の研究と情報発信を続けていきたいと思っています。

取材後記

取材場所に現れた元井さんは遠目にも美しい黒髪が印象的でした。一体どんなヘアケアをしているのかを尋ねると「ヘアブラシは2つだけ。ものすごく高価なものではありませんが、道具は使いようです。髪をとくときには毛先から15センチ幅で少しずつといていく、ドライヤーは上から風をあて最後は冷風で仕上げるなど、簡単なことを丁寧に続けているだけです」とのこと。「でも、美容師さんは信頼できる人を全力で探しました。結婚相手を探すくらい真剣に選ぶべきです」と笑います。理想の美容師さんと出会い劇的に髪の質が変わったそうです。ヘアケアもビジネスも人生も、パートナー選びは大切です。

元井さんのブログはこちら https://profile.ameba.jp/ameba/rinamotoi