Nikkey’s ~ここだけのハナシ~
2月

40代で初転職してみたら、自分のことがよくわかった

建築CADオペレーター。46歳

宮本せつこさん

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約18年勤めていた会社を辞めて未経験の仕事へ挑戦

 みなさんは「いつかは辞めたい」「違う仕事をやってみたい」と思いながら、動けずに数年が経ってしまったことはありませんか? 私は4年ほど前に、約18年続けてきたCAD(コンピューターによる設計)オペレーターという設計図面を描く仕事をやめて、40代で初転職。未経験の営業アシスタントになりました。

 結論からいうと、1年ほど働いてみたものの営業アシスタントの仕事が自分には合っていないこと、もともとやっていたCADオペレーターという仕事が好きなことに気づき、今は再びCADオペレーターの仕事をしています。

 一念発起して退職し、今の職場に落ち着くまでの3〜4年は、新しい仕事にとまどったり、体調を崩したり、CADの事務所を何社か移ったり、いろいろな意味で不安定な時期ではありましたが、一度違う世界へ飛び出してみてよかったと思います。

昭和時代の手描きの設計図をデジタル化するのがおもしろい

 私は学生時代にインテリアデザインを学び、その頃に授業でCADに出合いました。卒業後、自分の進むべき道を考えながらしばらくフリーターをしている中で、自分にはデザインのセンスがないことを感じ、それならば技術の道をいこうと建築系のCADオペレーターとして就職しました。

 建築のCADは主に「意匠」「構造」「設備」の3つがあります。私は建物の躯体構造に関わる「構造」分野が専門です。柱が何本必要か、どこに鉄筋を入れるかといった建物の基礎となる部分なので、完成時には表から見えません。

 これまで数多くのマンションやホテルなどの設計図面を手がけてきました。珍しいものではアミューズメントパークのアトラクションの図面も描きました。海外から送られてくる資料がすべてインチ表示で、苦労したのを覚えています。

 最近は、耐震診断をするために40〜50年前に描かれた手描きの設計図面をデジタル図面へデータ化する仕事がおもしろいです。手描き図面の線や文字にはデジタルデータにはない味わいがあります。半世紀近く前に描かれた図面を前に昭和時代に思いをはせながら取り組んでいます。

CADの仕事が自分に向いていたことを再認識

 今こうして図面を描くことを楽しめているのは、やはり一度違う仕事を経験したからです。長年勤めた会社を辞めたのは42歳。それまで何度か辞めようとしましたが、そのたびに引き止められ、なかなか踏み出せませんでした。いよいよ「このぬるま湯からとにかく出たい」と思い退職。次の転職先も決まっていませんでした。

 そして職業安定所を通じて出合ったのが、営業アシスタントの仕事。内装の会社だったので業界としてはこれまでとそう遠くありません。内勤の事務仕事という意味でも同じです。しかし、自分の世界に没頭できるCADの仕事と、常に周囲から連絡が入りあれこれ処理していかなければいけない営業アシスタントの仕事は、私にとってかなり違うものでした。

 初めての仕事で常にとまどいがあり、やりこなしたいけれどやりこなせないことが辛かったです。いい人に囲まれた職場だったのが救いで、会社のことも好きでした。この仕事はやめたいけれどこの会社はやめたくない、と悩みました。しかし、続けるほどに仕事が自分に向いていないことを痛感。1年余りで退職しました。再びCADオペレーターの仕事に就いた時には「やっぱり図面を描くのは楽しいなぁ」と思いました。

会社勤め=不自由ではない、ということにも気がついた

 CADオペレーターの仕事が好きなことに気づけただけでなく、働き方についても発見がありました。会社に勤めていた時は「自由な時間がほしい!もっと時間があれば......」とやりたいことがいっぱいあったはずなのに、自由な時間ができたら逆に何もできませんでした。

 働き方にも様々なスタイルがありますし、フリーランスの人をうらやましく思ったこともありますが、私はある程度の縛りがあるほうがいいようで、会社員が向いていることもわかりました。会社員には会社員の良さがありますし、会社勤めが決して不自由なわけではなく、自由かどうかは自分が決めればいいものだと思うようになりました。

 40代半ばを迎え、年齢的な変化もあるかもしれませんが、「自分がんばれ!」という時期は過ぎたように感じます。転職の経験を通じて、ガツガツやるよりも気負わずゆるやかに構えることの大切さを知りました。今の自分を「これでいいんだよ」と認めながら、自然体で流れに身をまかせていきたいと思います。特別なことではなく、日々の普通の暮らしを楽しんで生きていきたいです。

日本茶から台湾茶へ。お茶が週末の楽しみ

 週末はのんびり自宅でお茶を飲みながら過ごすのが好きです。お茶との付き合いは長く、高校時代の茶道部にはじまり、20代の頃から8年ほど裏千家の茶道教室にも通っていました。静かに正座して、お湯の沸く音、茶を点てる音に耳を澄まし、茶器を味わい、一服を楽しむ。五感を研ぎ澄まして過ごす時間はリフレッシュやリセットに最適でした。また教室では職種も年齢も異なる幅広い人たちと出会えて、茶道に限らず礼儀作法などたくさんのことを学べました。

 今は茶道から少し離れ、お茶のルーツを辿るうちに中国茶や台湾茶の魅力にはまってしまいました。年に一度は台湾に旅行します。お茶はもちろん食べ物もおいしいし、人もやさしくて大好きです。日本から近いので、ぜひ行ってみてください。

ニッキィズ一問一答

Q.

今までに買った一番高価なものは何?

A.

「着物です。お茶会用の色無地の着物を揃えました」

Q.

近頃、衝動買いしてしまったものって何?

A.

「化粧品。売り場ですすめられて予定にないものまで買ってしまいました」

Q.

健康や美容のために心がけていることは?

A.

「日々の食事に気をつけています。インスタントフードや冷凍食品などは極力避け、今は発酵食品を積極的に摂っています。ただし神経質になりすぎず皆で食事する時は楽しく何でも食べます」

Q.

お金にかえられない元気の源は?

A.

「自然の力。住んでいる町から山が近く、暮らしのなかでも自然を感じられます。お寺や神社などがもつ独特な場の力からもエネルギーをもらえる気がします」

Q.

みんなに教えたいおすすめの本を一冊!

A.

「『老子の無言』田口佳史。今は物質的に恵まれている世の中ですが本当に自分に必要なものはそう多くない、ということを教えてくれます」

取材後記

「ここ数年はいろいろと不安定でした」という言葉で始まった取材でしたが、お話を聞き終わる頃には、その不安定な数年が新しい価値観や自分再発見につながった有意義な月日だったことが伝わってきました。「そうですね。今思えば……」と宮本さんは笑います。お茶好きが高じて15〜16回も旅しているという台湾についておすすめスポットを伺うと、「台北にある『猫空(マオコン)』という場所。ロープウエーに乗って山を越えた先に茶芸館などがあります。景色も素敵です」とのこと。山が新緑に包まれるこれからの季節はひときわ気持ち良さそうですね。