Nikkey’s ~ここだけのハナシ~
9月

国際協力の現場では人間力を問われます

NGO職員。41歳

及川美穂さん

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2〜3カ月に一度はアフリカを訪問

 アフリカの農業開発支援を行うNGO(非政府組織)で働いています。現地の人事、広報活動などを担当する日本の事務所でのバックオフィス業務が基本ですが、2〜3カ月に一度はアフリカを訪問しています。

 今年8月末には、横浜で行われたTICAD7(第7回アフリカ開発会議)にあわせイベントを開催しました。安倍首相が来場したり、アフリカからの出席者らとともに日本の農業研修へ出かけたり、慌ただしい夏でした。

支援ではなく対等なビジネス関係を

 私がアフリカと関わって約15年になります。資金的な支援を中心に行う国もありますが、日本は現地のニーズにあった泥臭い地道な支援を続けてきました。魚を渡すのではなく、釣りの方法を教えるような支援です。日本の技術や日本人の活動は現地で感謝されていると感じます。私たちが今こうして歓迎され、感謝され、日本へ興味を示してもらえるほどの関係性があるのは、これまで活動してきた多くの日本人たちのおかげだと思います。

 これからのアフリカとの関係は、支援ではなく対等なビジネスが増えていきます。アフリカの持つポテンシャルは日本にとっても不可欠です。政府も日本企業の途上国進出を後押ししています。

 ビジネスの関係となると、支援とは異なりシビアな要求に応えていかねばなりません。はじめは苦労を伴いますが、OJT(実務を通じた教育)のほうが着実に成長できると思います。この先しばらく、日本とアフリカは支援と投資の両輪でつながっていくことになるでしょう。

人間らしく生きよう。会社を辞めエチオピアへ

 学生時代からアジアで井戸掘りや植林のボランティアをするなど、国際協力に興味がありました。しかし新卒で入社したのは日本のメーカーで、マーケティング部に所属し多忙な4年強を過ごしました。就職氷河期のなか苦労して手に入れた就職先。仕事も面白く、寝食を忘れがむしゃらに働きました。

 そんな時、家族が大きな病気を患ってしまいました。おかげで私は自分の生活や人生を考えることができ、「人間らしく、自分らしく、やりたいことをして生きていこう」と、会社を辞めました。そして、青年海外協力隊として活動を開始。エチオピアで2年、フィジーで7カ月ほど活動を行いました。

 現地の人々との心の触れ合いから「自分でも誰かに必要とされている」という存在意義を感じると同時に、活動すればするほど感じたのが自分の無力さでした。英語もできない、特殊な技術もない、資格や修士号もなく専門知識もない。役に立ちたくても思うように役に立てないもどかしさを感じました。

 そこで、帰国して国際協力学を学ぶために大学院へ入学することにしました。あんなにも何かのために勉強したいと思ったのは初めてでした。その後は、JICA(独立行政法人国際協力機構)の国内外の事務所で働き、再びエチオピアへ。キルギス、インドにも駐在し、プロジェクト専門家として現場業務も経験し、約2年前に現在のNGOに転職しました。

ダイナミックに変化するアフリカの社会

 国際協力に携わる人たちがよく言うことですが、アフリカの国々に支援に行くと、こちらが元気をもらいます。日本では、通勤ラッシュに揉まれ無表情で歩いたり、パソコンと向き合って1日を過ごしたりという毎日ですが、そんな暮らしと無縁な日々です。気ままにお茶を飲んでおしゃべりに興じ、泣いたり笑ったり。経済的な貧しさはありますが、人と人とのコミュニケーションが密で豊かな時間が流れています。行くたびに人間らしさとは何かを思い出させてもらえます。

 途上国は様々なことが不安定で、社会の変化の振れ幅が大きいです。わずか1年で良い方にも悪い方にも変わります。ひとつの選挙結果が人々の人生や命を左右することもあります。成熟した日本では味わえないダイナミックな社会の変化を間近で感じ、その変化に関われることこそがこの仕事の醍醐味です。

 経済成長という面では先を行きつつ、多くの課題も抱える先進国と同じ失敗を繰り返さないよう、環境との共存といった長期的な視点からサスティナブルな成長を促すのが私たちの役割。その国の人が自分の国を誇らしく思えるように、より良い方向へ変化できるよう支えたいと思っています。

日本にいる時よりも人間力を問われる

 ひとことで「アフリカ」と言っても、当然ながら国ごと、地域ごとに異なり、様々な魅力があります。例えば、私にも馴染みのあるエチオピア。エチオピア人は自分たちをアフリカ人とは思っていません。植民地になることなく独立を守った誇りがあります。独自の「エチオピア暦」という暦、「コーヒーセレモニー」という日本の茶道のようなコーヒー文化などを持っています。とても気高い人たちです。

 そして、これも当たり前ですが、一人ひとりに個性があります。国際協力は人づくりとも言われます。人と人との関係がとても大切です。同じことでも伝える人の人間性によって相手の反応が大きく変わります。日本で過ごす以上に、向こうでは人間らしさや自分らしさ、人間力を問われます。それもこの仕事の魅力です。彼らと過ごす中で私も1人の人間として成長していきたいと思わされます。

次の世代に伝えていく番がきた

 最近、なぜ自分が途上国へ関心を持つようになったのかを考えていました。幼い頃、親の転勤のためベルギーで暮らしていました。そこで白人の老夫婦が黒人の赤ちゃんを養子に迎え、抱いていた姿を見ました。幼いながら「なんで白人が黒人の赤ちゃんを育てるの?」と衝撃を受けたことを覚えています。

 また小学生の頃、青年海外協力隊の経験を持つ体育の先生が、途上国の話をしてくれたことも記憶に残っています。大人になってから同級生にその話をしても誰も覚えていなかったのですが、私は鮮烈に覚えています。私にとっては子供ながらに気になる話題だったのだと思います。

 これからは、自分が幼い子供たちや若い世代にアフリカのことを伝えていく番です。今も小学校へ出前授業という形で話しに行くことはありますが、もっと積極的に活動していきたいと思っています。私がしてもらったように、次の世代の誰かに、人生のきっかけや未来への種を届けられたら嬉しいです。

ニッキィズ一問一答

Q.

今までに買った一番高価なものは何?

A.

「大学院の入学金。第1志望の大学院の合格発表の前日が、第2志望の大学院の入学金納入の締切日だったんです。背に腹は変えられず40万円を入金。翌日、第1志望校の合格がわかった時には喜び半分悔しさ半分。複雑な気持ちでした」

Q.

近頃、衝動買いしてしまったものって何?

A.

「ケミカルピーリングのオプション。ビタミンCやヒアルロン酸を追加してしまいました」

Q.

健康や美容のために心がけていることは?

A.

「体重を一定に保つこと。私の場合、痩せると脳がうまく働かないし、太るとだるくなるので、自分にとっての理想体重のプラスマイナス1kgの範囲内を10年以上キープしています」

Q.

お金にかえられない元気の源は?

A.

「丈夫な体。両親や祖父母にも感謝です」

Q.

みんなに教えたいおすすめの本を一冊!

A.

「『鳥のように、川のように』長倉洋海。人は何かを成すために生きているわけではない、何をしなくても生きているだけでいい、と語りかける一冊。就職して機械のように働いていた時代に人間らしさを思い出させてくれました。周りに合わせて生きることや目標を掲げることに疲れた人に、ぜひ読んでほしいです」

取材後記

国際協力というと大事業のように感じますが、「目の前の人に幸せになってほしいという地味な思いの積み重ねです。それ以上でもそれ以下でもありません」と及川さん。そんな及川さんが「もう一度会いたい」と話すのが、人生に影響を与えてくれた小学校の体育の先生。「関口先生という男性の先生です。今どこにいらっしゃるかわからなくて」とのこと。いつか再会できるといいですね。どんな言葉が誰の人生にどう影響を与えるかわからないものです。知らず知らずにたくさんの人が関わり合っていることを感じた取材でした。